海外の先行事例はどうなんだろう
前回、リスキリングの背景やそもそもの定義について触れましたが、現在我々が置かれている状況はどうでしょう。またこれからどのように進めていけばよいでしょうか。やはり海外の先行事例が目立つうえに参考にしなければならない部分が多々あるのですが、なんといっても先駆者はAT&Tと言えるでしょう。
※「AT&T Inc.」は、1885年に発足したアメリカ合衆国の通信会社。「日本IBM」との戦略的合意に基づき日本国内でも事業展開を行い、「AT&T」の技術を日本に取り入れながら企業向けネットワークのアウトソーシングサービスを手掛けてきた。
10年以上も前に、約半数の従業員の持つスキルが将来役に立たなくなると予見し、全社的に約10万人のリスキリングを開始したのに続き、アマゾンやウォルマートなどもこぞって大規模なリスキリング・プログラムを開始しました。ちょうど2013年には英オックスフォード大学のマイケル.A.オズボーン准教授(当時)が、”The Future of Employment”(「雇用の未来」)という論文を発表し、10年後になくなる職業が明らかになったことで話題になったことも記憶に残ってるところです。
氏は続く日本での雇用についても言及し、「日本の労働人口の約49%がコンピューター技術に代替される可能性が高い」と発表したことも衝撃的でした。さらに世界経済会議(ダボス会議)でも「リスキル革命」というセッションが3年続き、「2030年までに10億人のリスキル」が提唱されたことに加え、「数年で8000万件の仕事が消失する一方で、9700万件の新たな仕事が生まれる」とも予測しています。
日本での動きはどうか
海外から遅れをとったものの日本の企業も次々と取り組みを開始しています。どちらかというと、DXというキーワードが先行している印象がありますが、大手IT企業の取り組みをはじめ、技術系社員でなくても全員がAIのリテラシーを学ぶといった企業も増えてきましたし、文部科学省もAIが幅広い産業で必須になるとして、すべての高校生、大学・高専生が2025年までにAIの基礎的な素養・知識を持つことを目標としました。今を第四次産業革命の真っただ中にいるとして、この先のSociety 5.0を見据えた時に持つべきスキルの見直しは必須だということは理解できるのですが、はたしてこの取り組みを順調に進めていくことはできるでしょうか。
現時点での課題はなにか
この先身に着けるべきスキル、それは現有スキルの拡張もあれば、新たに加えるべきスキルもあるでしょう。何から手をつけたらよいのやらと途方にくれたり、やみくもに手を出したり・・・。先の見通しを立てるためにまずしなければならないのは、今の立ち位置を把握することです。果たしてそれってできていますか?意外と会社全体あるいは社員個々に持ち合わせている現状のスキル内容やそのレベルが明確にされてないことが多いのではないでしょうか。
人事評価の仕組みの中でいわゆる「スキルマップ」を最新の状態で可視化されており、将来のキャリアビジョンとキャリアパスを示し、どのようなスキルを身に着けていくべきかを考えることが必要ではないかと考えます。確かに将来明確にこうなるという定義づけをすることは難しいものの、働き方を含めて議論することは今こそ必要なのではないでしょうか。
さしあたって進めたいこと
ただ単にリスキリングをするということではなく、なぜある分野のスキルをあらためて身に着けるべきなのかという動機付けをすることができていれば、明確な目標を立てたうえでスキル習得へのアクションを起こすことができるでしょう。そうではない場合、先に触れたように将来どうあるべきかを議論すること、アイディア出しを重ねることで方向性を見出すことは意義あることです。
DXが単なるデジタル化ではなく経営の根幹にかかわる改革であることとこのリスキリングの取り組みは密接に関連します。改革を導く議論やアイディア出しは経営層が率先して取り組む必要があると考えますが、並行してリスキリングのための材料もそろえていかなければなりません。明確なスキル分野が定義できればそれに沿った教育・研修を準備することもできますが、そうでないのであればあらゆる分野の学習機会を広く持っておくことは有益です。最近では自発的に自分の好きな分野の講義を受講できるオンライン学習の仕組みも出てきてますのでそれらを活用することも、もしかすると改革のアイディアにつながるかもしれません。
次回もリスキリングを進めていくにあたり取り組むべきことに触れていきます。
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